地方自治体の動画は「見られること」を目的にするべきではない。絶対に。
読売オンラインの記事です↓
ヘビメタ、怪獣、シンクロ、アニメ、ゲーム風 etc.といった、奇をてらった地方自治体のPR動画は「テレビやネットで話題になることだけを過激に追求し」「本来の目的だった”地域ブランドの構築”が、なおざりになってしまっている」という内容。
これ、激しく同意いたします。
私、広告業界に長く身を置いているのでこの記事で例に上がっていたような動画を見ると
「みなさんの町には”素晴らしい自然があります!特産物があります!ただその存在が知られていない。ならばまずノイズを起こして注目してもらう。そうやって振り向いてもらえればあとはこの町本来の魅力が見る人を虜にします!」的なプレゼンをするCDの姿が目に浮かぶのですが、
できれば自分の出身の町はこういうのに引っかかって大事なお金を溶かしたりしてないといいなぁと思います。
だって「こっちを見てくれさえすれば魅力に気づいてくれるからとにかく突飛なことをして振り向かせるのだ!」ってストーカー型のファンと同じ構造じゃないですか。
でも地方創生の目的って(観光客の誘致ももちろん大切ですが)究極的にはその土地を好きになってもらって移住(帰郷も含む)してくれて家族を増やしてくれて産業に携わってくれることだと思うのです。つまりそれって移住するほうからするとそれなりに人生がかかってるってことですよね。
前述の例えに落とし込むと、メチャクチャなノイズを出してこちらの気を引こうとするストーカーと目が合ったとして、その人と結婚するか?その人に人生かけられるか?っていったらちょっと考えちゃいますよね。逆に難しくなるっていうか。
で、じつは私、地方自治体のPR系のお仕事に携わっています。
八頭町は鳥取県の小さな町です。過疎は進んでいるし、人口推計では将来的な消滅可能性も示唆されています。でも、ただ座して死を待つわけにはいかない。現状を打破しなければいけない。
で、これ(=少子高齢化や労働力不足、経済のシュリンク)って日本のすべての地方都市(というか日本そのもの)がこれから直面する、そして打破しなければいけない問題なんですよね。
そこで私が立てたのが
「これかの日本のことをやっています。」
というコンセプト。(ちなみにこれがそのままキャッチフレーズになりました)
このコンセプトのとおり八頭町は自動運転の実用実験に町を開放したり、ドローンによる建設インフラ点検の実験施設を作ったり、と、少子高齢化と労働力不足をITで乗り越えようという日本の未来に先駆けるべく、知恵と工夫とテクノロジーとイノベーティブな発想を駆使した現状打破へと踏み出しました。
動画も制作しました。
コンセプトに共感してくださった方々による「イノベーションでこれからの時代を切り拓く」人へのメッセージ・インタビュー動画です。
怪獣もシャンソンもジャパニメーションも出てきませんが、無名の小さな町の取り組みとは思えないほど豪華な方々がご出演を引き受けてくださいました。
”派手な”PR動画の数十万、数百万というPVには及びもつきませんが、それでも地方自治体が制作した動画としてはなかなかの成績を上げていますし、その数字は今も少しずつ伸び続けています。
「これからの日本のことをやっています」というコンセプトに注目していただき、
キャリコネさんとご縁が生まれ
というような形で特集が生まれました。(もっとも尊敬する経営者の一人、ライフネット出口治明会長にもインタビューができました!)この特集経由で全く新規の一万人以上の方々が八頭町のサイトを訪れてくださいました。
県内の最有力企業である銀行グループが積極的に音頭をとって廃校をリノベーションしてIT系のベンチャー企業に格安で提供する特区的施設を作る事業会社が生まれました。すでに複数の入居企業が決定しています(県外から来る新しい企業です)
もちろんここがゴールなわけではなくここからが本番ですが、いまのところ八頭町は「おもしろ動画」ではなく「伝えるべきことをきちんと伝えるコミュニケーション設計」で成果をおさめはじめています。
タイトルにも掲げましたが、地方自治体の動画は「見られること」を目的にするべきではないと私は考えます。経験と実績から「断言します」と言ってもいい。
ちなみに、私、八頭町どころか鳥取県の出身でもなくて、じつは40歳を過ぎるまで足を踏み入れたことすらありませんでした。
が、この仕事をやってるときにはずっと「ここが自分の地元だとしたら、こういう風に見られる町になったらいいなぁ」という想いで携わっていました。
もしも私の地元の町(村?)の創生に携わる人がいらっしゃったら、あのときの私と同じような気持ちで手がけてくれたらいいなぁと思います。